優しいルビーへ
やあ、ルビー。お手紙ありがとう。
無事私の手元に届いているから安心して欲しい。
調子はもう大丈夫。ぴいって鳴いたりしていない。
あの時は恥ずかしいところを見られてしまった。
私の方こそ、出会えた幸せにお礼を言わなくてはいけないよ。
君が『木陰』に来てくれて、とても嬉しかったんだ。
今、島は、良くわからない事になっている。
探索ができず、遺跡の中など時が凍り付いたように静まり返っている。
その為、探索者は軒並み遺跡外にいるようだ。
多分、皆、島の異変に気付き、そして理解している。
おそらく島は閉じているのだ、と。
私達はもう少しの間、ここに留まるつもりだ。
夏のお祭りがあっているんだよ。
皆の「どんな時でもできるだけ楽しもう」とする心掛けには、全く頭が下がる。
その後の事は、まだ決めていない。
あの『木陰』のような場所は、閉じてしまっているわけではないんだが、今は島の理が揺らぎ過ぎていて、落ち着ける状態ではない為、君のところから通じ難くなってしまっているのかもしれないね。
ただ、あれは『どこかの木陰』だ。
どこでもない代わりに、どこでもある。
それをどうか忘れないで欲しい。
忘れないでいてくれたら、いつか会える事もあるだろう。
ふふふ、確かに、魔力はあった方が辿り着き易いのかもしれない。
使いこなせると便利だから、練習してみるのもおすすめだ。
君の住む街へも行ってみたいものだ。
ルビーに似て、きっととても美しい場所だろう。
私が訪ねて行っても、どうかびっくりしないでね。
白灰色のハイダラより
ルビィラ様へ
謹啓
白露の候、ルビィラ様におかれましてはお変わりなくお過ごしの事とお慶び申し上げます。
わたくしごとき下賤のものが、この様に貴女様へお手紙をしたため同封致しますれば、どれほど驚かれる事かと心苦しく存じます。
御不興を賜るも覚悟の上で御座います故、今暫くのお目汚しをお許し頂ければこれ以上の僥倖は有りません。
お手紙拝見致しました。絨毯の身へも御慈悲を頂き、感謝の言葉もございません。お心遣いに厚く御礼申し上げます。
わたくしどものようなものは、お寛ぎ頂く事が何より嬉しいのでございまして、その上、いくらかでも貴女様の御心が安んじたのであれば、それに勝る満足はございません。どうかまたいらして下さいませ。いつでもお持て成し致します。
さて、以前、お目通り致しました折に、貴女様がお訊ねになった事に関してで御座いますが……。
おそらくお答えしても、ハイダラ様からお咎めを受ける事は御座いますまい。
主は特別に高貴なお生まれというわけでは御座いません。どちらかと言えば、そうではない方、といった方が近いのであろうと存じます。
ただ、主の保護者とでも言うべきなにがしである御方が、些か長く、一定のものどもの上に君臨するお立場で御座います故、その物腰に影響を受けていらっしゃることは否めません。
このようなお返事で、貴女様の疑問が解消出来ておれば良いのですが。
ハイダラ様からのお手紙に記してあるものと存じますが、あの『木陰』は結界で護られた世界であり、主であるハイダラ様の御機嫌に寄って時折閉じたり消えたりも致しますが、様々な可能性を秘めている、という事だけ、わたくしからも申し上げて、御挨拶に代えさせて頂きます。
乱筆、乱文、御容赦下さいませ。
貴女様のこれからの御多幸をお祈り申し上げます。
敬白
カディム